最近は殆どNBAを見ることが出来ておらず、記事の更新も約一か月ぶりです。そういう状態で久々に見たマブス対ナゲッツのクリスマスゲームについて、色々と思うところがあったので書いてみます。
クーパー・フラッグの成長
兎にも角にもまずはこれでしょう。一か月ぶりに見たクーパー・フラッグは、まるで別人かのようなプレーをしていました。
10月 13.8点 6.2リバウンド 2.8アシスト
11月 17.8点 6.7リバウンド 3.7アシスト
12月 24.1点 6.2リバウンド 4.5アシスト
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11月の時点でボックススタッツの見栄えは良かったものの、そこから大きくステップアップしています。特筆すべきはTS%の伸び方で、50.2→54.8→60.6%と、12月は途轍もない効率でここまで決め続けています。加えてターンオーバーは据え置きのままアシストを増やしているので、AST/TOは2.25と優秀そのものです。
彼の変化が顕著に見て取れるのはフリースローのアテンプト。10月に2.6本しかなかった試投数は、12月に6.8本と実に二倍以上も増えているのです。その成功率もシーズンで80.6%と高水準。
大学時代からシュート力の高さを感じさせていたフラッグは、その能力を強引にアタックして無理やり打ち切るような場面でも発揮しています。その為、ディフェンス側はファウル以外で止めようがなく、必然的にアタックが増えた回数だけフリースローのアテンプトが増えている、そんなことが伺える数字の変化です。
言い換えれば、フラッグに起きた最大の変化はメンタリティということです。11月の時点では消極的なプレーが目立っていた彼でしたが、今日の試合では終始苦しい場面で自らアタックを仕掛け、オフェンスを繋いでいました。特に印象的なのはマブスの最後のオフェンスで、ボールを要求するアンソニー・デイビスを無視して自らドライブを仕掛けており、11月の時点とはゲームに対して別人のようなメンタリティで向き合っているように見えました。
フラッグが積極性に欠けていたのは本人の問題だけでなく、チーム事情によるところも大きいと思っていたので、このような変化がこんなに早く起きているのは喜ばしいことでしょう。ディフェンスでもヘルプのタイミングが早まったことで、本来期待されていたディフェンダーとしての能力も徐々に片鱗を見せているので、フラッグにはこれまで以上に期待したくなります。
ケイレブ・マーティン
個人的に、フラッグの衝撃と同じかそれ以上にインパクトがあったのが、ケイレブ・マーティンでした。ただ彼はフラッグと違って期待のルーキーということもなければ、オールスターレベルの選手というわけでもないので、そもそもケイレブ・マーティンはどんな選手だったか、ということについて書いてみたいと思います。
これは2022-23シーズンのカンファレンスファイナル、ヒート対セルツのゲーム7のハイライトです。当時は苦労して2way契約から本契約にグレードアップした、いわば崖っぷちをギリギリで乗り切った彼でしたが、このシリーズはジミー・バトラーに次ぐチームの二番手、ことゲーム7に関しては両チーム合わせて最多の44分出場して26点を記録し、ヒートの最重要選手になっていました。
当時のマーティンはNBAの標準的なウィングでした。スリーの確率は突出して高いわけではなかったものの、2Pの確率の良さでコーナーシューターとしては高めの平均得点でしたが、彼より高確率で同じぐらいの得点を取れる選手はいたので、やはりウィングとして突出した選手とは評価されていなかったと言えるでしょう。
そんな彼ですが、このシリーズで見せた鋭いドライブは、マーティンがただのシューターではないことを如実に表していました。スリーとドライブを組み合わせた駆け引きが巧みな上に、純粋な加速の速さとストライドの大きさで見事にペイントエリアに侵入、更にゲーム7ではドライブからのフェイダウェイというパターンも見せていました。この活躍により、一年前まで2way契約だったマーティンは、2022-23シーズンのイースタンカンファレンスFMVPの投票でバトラーに次ぐ2位と評価されました。それも僅か1票差での2位です。
それから時を経てマブスにやってきた彼は怪我の影響等もあったのかもしれませんが、今シーズンの序盤はほぼプレータイムを与えられず、出たかと思えばガベージ要員でした。そしてたまに出たマーティンはドライブどころかスリーも打たず、ひたすら味方にスクリーンを掛け続けるスクリーナーをしていました。かつての姿はどこへやら、ヒートファンでなくとも度肝を抜かれる変わり様でした。
VSナゲッツ
24.51分出場 9点 4リバウンド 3アシスト
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しかしこの試合でマーティンはシーズン最長のプレータイムを与えられ、シーズンハイの得点を記録しました。2023-24シーズンは30.4分で10.0点を記録しているので、かつての姿を取り戻したと言えるかもしれませんが、実際のプレーを見るとかなり印象が違いました。
2025/12/23 ケイレブ・マーティンのプレー
— 下川関 (@NBA928906263606) 2025年12月25日
コーナーシューターとしての役割が多かった彼がナゲッツのゾーン攻略の為にポイントセンターを担った。ハイポストからの鋭いドライブは、かつての同僚バム・アデバヨのプレーを彷彿させる。 pic.twitter.com/bHHfOb221K
第3Qにゾーンディフェンスを仕掛けたナゲッツ。ナゲッツのゾーンの肝に手こずるチームは多く、マブスもその内のひとつです。
ナゲッツのゾーンディフェンスの肝は、二コラ・ヨキッチのポジショニングの良さとリバウンドの強さから来るディフェンス力だと思っています。鈍重そうな見た目からたまに勘違いされることもありますが、ヨキッチは非常に優れたディフェンダーで、ドライブコースを先回りする能力に長けている彼は「そもそもドライブさせない」守り方が出来て、その上ディフェンスリバウンドを確実に取るので、無策で突っ込めばディフェンスからのカウンター速攻で詰みになってしまいます。
そんなナゲッツのゾーンに対して多くのチームが実践する戦術は、ヨキッチをアウトサイドに引き出すというものです。但しこれも簡単ではなく、プレスイッチしてヨキッチをインサイドに留まらせ続けたり、逆にショーディフェンスで一転してプレッシャーを掛けたりするので、同じ形を作るのに苦労するのが悩ましいところ。ルカ・ドンチッチが在籍していた頃でさえ苦戦していた、そんなナゲッツのゾーン。これをマブスはマーティンを使って攻略しました。
第3Qのマーティンはヨキッチとマッチアップして、ハイポスト近辺でボールをキープしていました。最初の動画では、カッティングを狙うライアン・ネムハードへの合わせのパスを出そうとしているのが伺えます。そしてそこへのパスが出せないとなれば、すぐさま逆サイドのフラッグの元へ寄り、ハンドオフで渡してブルース・ブラウンにスクリーンを掛けました。これがアドバンテージになり、サイズのミスマッチを活かしたフラッグが見事に決めきりました。そうは言っても簡単なシュートではないのでこのプレーはフラッグを褒めるべきですが、同時にコーナーに広がることでワイドオープンを自ら作っているマーティンにも注目したくなります。
二つ目の動画は特に面白いです。同じ形でボールを持ったマーティンが、今度は自らドライブしてレイアップを沈めます。このスピード感はかつてのマーティンを思い出させますが「ハイポストからのプレーメイクをフェイクにドライブ」というパターンは彼としては珍しいチョイスです。ただ同時に、かつてのヒートの試合を見ていると見慣れたプレーでもあります。
というのも、このプレーはバム・アデバヨが得意としていたものだからです。彼はハイポストからハンドオフとカッティングへのパス合わせというパターンに、自らのドライブアタックを組み合わせていました。そのスピードに鈍重なビッグマンはついて行けず、機動力のあるウィングではパワーに勝てないというオフェンスをアデバヨはしていましたが、この動画のプレーはそんな彼の姿を彷彿とさせます。マーティンの場合はアデバヨほどの圧倒的な身体能力はないものの、ドライブの鋭さはNBAでも優れており、決して小柄とは呼べないサイズにも関わらずヨキッチと他のディフェンダーの隙間を縫うように切り込むこのプレーは彼ならではのものです。おまけにこの試合では純粋なヨキッチとの1on1で自らスリーも決めたので、マブスとしてはナゲッツのゾーンディフェンスに完璧な回答が出来たと言えるでしょう。
今後の展望
なぜマーティンという選手に触れたのか、それは単純に自分が知っている姿とあまりに違い過ぎて(ついでにアデバヨに似過ぎて)興味深かったというのと、この件でマブスの未来予想図に新たな未来が描かれ始めた気がしたからです。
元々充足していたポジションに更にフラッグという将来のスーパースター候補のウィングが加わったことで、なんとなくマブスはこれまでのハンドラー中心のオフェンスからウィング中心のオフェンスに転換していくのがいいのかなと思っていました。まあそれは、どちらかといえばジェイソン・キッドがやりたがっていたオフェンス戦術が今のガードのレベルと釣り合っていないからというネガティブな意味合いが強いのですが……実際ネムハードは個人の得点力に欠けており、ブランドン・ウィリアムスは効率が悪いです。ディアンジェロ・ラッセルに至っては試合にすら出られないことも。
いずれも「ドンチッチと比べれば」という前置きをした上での話です。そもそも得点力でもプレーメイク能力でも、どちらか片方でもドンチッチより優れている選手という方が圧倒的に少ないので、ロスターと戦術のミスマッチ感は否めませんでした。
しかし、この試合でPGに頼らない形で相手ディフェンスを攻略したことは、マブスというチームにパラダイムシフトを起こすきっかけになるのではないかと考えています……いや、そうなって欲しいなという希望的観測です。
オフェンスの考え方をまるっきり変えるという大きな変化を起こすには、HCやフロントの交代といった抜本的な対応が必要になることが多いのですが、明らかにやりたいこととロスターが噛み合ってなさそうなのに、しかもシーズン中にGMまで解雇したというのに、頑ななまでにHCを交代しようとしないマブスのフロントなので、果たしてそんな大きな変化を起こすことが出来るのだろうか、と思ってしまいます。
理想的にはキッドがHCとしてチームをまた作り直すことなのでしょうが、ここ5年で選手にスタッフにGMにオーナーまで変わって、それでもただ一人チームの為に残り続けろというのは中々酷な話ではないでしょうか。個人的にキッドの手腕がどうだという話とは関係なく、もう解放させてあげて欲しいと思っています。
ジェイデン・ハーディ VSナゲッツ
27.5分出場 10点 2リバウンド 2アシスト
FG 5/9(55.6%) 3P 0/3(0%)
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ちなみにこの試合が、マブスが考え方を変えるきっかけになるのではないかということについて、一応根拠のようなものはあります。それがジェイデン・ハーディの存在です。
ハーディもマーティンと同じく、シーズンハイのプレータイムを与えられました。その結果が10得点と考えるとつい首を捻りたくなりますが、興味深いのはFGMの数字です。スリーを3本全て外したのに対し、2Pは5/6と極めて確率良く決めていました。
この数字は特に去年の彼を見ていると非常に違和感のある数字です。安定したスリーの成功率に対して一向に改善しない2Pのフィニッシュ能力を併せ持つスコアラーのハーディは、度々ドライブからのフィニッシュを阻まれることから、まるでペイントエリアから逃げるようにプルアップスリーの割合を増やしていました。そんな彼がなぜ1本もスリーを決めなかったのに10点も取っているのか。
結論から言えば、自らハンドリングすることが少なかったから、ということになります。この試合での2Pのフィニッシュを見ていると、ドライブフローターの1本以外は速攻でのレイアップとカッティングからのゴール下合わせというシチュエーションでした。それがちょうどXに投稿した4番目の動画のような感じです。
他のPG陣と同じく、ハーディもまた自らのハンドルで打開する能力に欠けている選手。正直なところ、彼が一番今のマブスについて行けていない感がありました。ハーディの場合は2Pのフィニッシュ力にもプレーメイク能力にも乏しいので、自らハンドルするとなればひたすらプルアップスリーを打ち続けるだけといったオフェンスになっていましたが、この試合のように脇役的な形でオフェンスに絡むことが出来れば、彼の弱点を隠しつつ長所のシュート力が活きるのではないかと思っています。
つまるところ、マブスはオフェンスの中心をPG→ウィングにして、そのウィングには出来ない仕事をオプション的にガードにやらせるというのが良いのではないか、という個人的な意見です。マブスのウィングは優秀なので色んなことが出来ますが、ウィリアムスのように隙間を抜けるドライブやネムハードのようなゲームメイク、ハーディほどシュート力は持っていません。
懐事情の問題もあるので、ドンチッチのように一人で何でも出来るガードを手に入れるのは中々に厳しいマブス。それこそダレン・ピーターソンを獲得出来れば話は変わってくるかもしれませんが、タンクする気はなさそうなので、だったら現実路線で何が出来るか考えなければなりません。そうなった時、実は一芸特化のガードを連れてくるのって、実はそんなに難しくないと思っています。NBAはガードのレベルが高すぎるのでついつい麻痺してしまいますが、ミニマムレベルのサラリーで素晴らしいスキルを持っているガードは幾らでもいます。そういった層の選手に目を向けて、チームに足りない要素を加えてくれるガードを的確に補強出来れば或いは……そんなことを感じたクリスマスゲームでした。