私はアニメも漫画も映画も見るのですが、唯一ドラマだけは疎いです。最後に見たのは逃げ恥でした。ていうか逃げ恥って10年前なのか……
NBAのシーズンが終わって何をしようかと思った時に、久々にドラマを見てみようと思いまして、JIN-仁-を一気見しました。元々好きではありましたが如何せん私が小学生の頃の作品ですから、もう内容も殆ど覚えていなくて、新鮮な気持ちで見られました。当時は平井堅が好きだったのもあって二期の印象が強かったのですが、見返すと一期の緒方洪庵(演-武田鉄矢)のエピソードが最強でしたね。
とまあ見事にドラマにハマりまして、ごくせんとかルーキーズとか野ブタをプロデュースとか、色々と見たのですが、特に良かったなあというのが医龍でした。天才外科医の朝田龍太郎が日本の大学病院にスカウトされて、医局の権力争いに巻き込まれながら最高のチームを結成する為に腕を振るうという物語で、もう凄く面白かったです。特に一期と二期の最初ですよね。一期のボス的な立ち位置だった霧島と協力するところとか熱すぎました。
それで、どうやらドラマと漫画で話が全然違うらしいぞという情報を知りまして、この度原作の方も購入したのですが……一言で表すのなら「〇す気か?」って感じですね。面白いとかいう次元を遥かに超越した、作品のパワーに圧殺されそうな気分でした。その日の晩に一巻から読み始めて、結局朝方までに全巻読み切ってしまいました。もし医龍が200巻ぐらいあったとしたら、文字通り私と私の財布は圧殺されていたかもしれません。
今回はこの医龍という作品について、語っていきたいと思います。
医局内のいざこざ
先ほど少し触れたように、この作品は医局内でのいざこざが大きなテーマとなっています。教授の野口は医局のトップに君臨し続ける為に、朝田をスカウトした加藤はその野口の後継者として教授になる為に、そして霧島は凡人である医者を守る為に教授選に向けて暗躍します。朝田はそうした権力争いの中でジョーカー的な立ち位置で、基本的には加藤陣営の味方ではあるものの、時に利敵行為ともとれる行動をするので、常に話がどう転がるのか読めません。
どのキャラも強い信念があり、言う事がころころと変わる野口でさえも一貫したものがあります。ただ医者という職業、人の命を扱うという重責が、時に信念を良いようにも悪いようにも歪めようとするのが面白いところです。これは医療漫画ならではの要素ですね。
ドラマだと基本的に「どんなことをしてでも患者を助ける」という一貫性があってヒロイックな味付けがされていますが、原作は綺麗事だけではどうにもならない現実というのを嫌というほどに見せつけてくるのです。
中でも霧島は多くの難題を突き付けられていました。最初は朝田への嫉妬でしかなかった感情を「凡人を守る」という目標に昇華し、その目標を達成する為に尽力します。彼が腕を振るったのは主に政治方面でしたね。最終的には医療分野の才能で他の候補者に敗れてしまい、守ると言った凡人たちにそっぽを向かれるという悲惨な結末を迎えました。
この教授選で立候補したのは加藤、霧島、国立の3人でしたが、正直患者という立場から見れば霧島が最も魅力のない候補者だったと思います。でもこうして読んでみると、愛さずにはいられないですよね。情に厚いというか、ただ只管に弱き者に手を伸ばそうとしていたとか、嫌いになれるわけがない。教授選に惨敗した後、自分を支持してくれた人たちへ頭を下げ、当選した加藤には彼らの立場を守るように掛け合うところとか、どんだけ良い奴なんだと思います。
その霧島よりも先に落選した国立は、UCLAの教授という実績でいえば野口など赤子同然というような立場でカテーテルの技術と人脈で教授選をリードしますが、手術の失敗により敗戦します。
国立登場時のインパクトは凄かったですね。実力で朝田を超えるかもしれない医者が現れた、という感じで。結局彼がやりたかったことは医局をアメリカ流に改革して、医者のあり方のようなものを息子に説きたかったということで、言葉にすると結構ふわっとしています。その言葉の説得力として国立の実力の高さが描かれていたのだとは思いますが、このふわっとしているってところがミソですよね。落選後に医者を辞めたことにも納得いきます。その後息子とのわだかまりが解けて医局に戻ることも含め、ある意味一番手にしたかったものを得られた候補者なのかもしれません。
候補者ではありませんが、鬼頭も良いキャラでしたね。最初は野口や加藤に取り入りながら医療の改革に乗り出そうと裏で暗躍しますが、物語が進むにつれてそういうのが性に合わないんだろうな、というように描写されていきます。朝田の腕を見込んでERに勧誘する内、次第に自分自身が医者として後ろ髪を引かれるような気持ちになり、最終的にはいちプレイヤーとして患者を助ける道を選びました。
打算や利害の一致で繋がるこの作品のキャラクターの中では珍しく、何のしがらみもなく朝田と繋がったキャラクターでしたね。朝田とミキは過去のトラウマがありましたし、伊集院とは師弟関係みたいな感じでしたし。他には藤吉ぐらいですかね?
教授選に勝ったのは加藤。まあメタ的に見ればそうだよな、と今は思いますが、読んでいる時はまさか本当に教授になるとは思いませんでしたね。それやっていいやつ? みたいなことも結構普通にやっていたので。
彼女の医局を改革したいという信念がもたらした結果ですが、女性という事もあり、政治的にいえばわきの甘さが目立つ場面が多々ありました。それを結果で跳ね返した、結果で跳ね返す為に強いチームを作ったというところで、やっぱり物語は彼女を軸にしていた感がありますね。これだけ魅力的な敵キャラを登場させながら、最後には落ち着くべきところに落ち着けたということで、乃木坂太郎のシナリオの強さが遺憾なく発揮されたキャラクターでした。加藤というキャラクターを深掘りすることは、シナリオ作りの勉強になるだろうな、というのが一番の感想です。ちなみに二番目は可愛い。
ドラマでは押しも押されぬ主人公として存在感を見せていた彼ですが、原作だと意外とそうじゃないんですよね。勿論彼がいなければ何も起こらなかったわけで、その影響力は凄まじいのですが、彼自身が候補者じゃないということもあって徹底して蚊帳の外にいようとしていました。
面白いですよね。こんなに物語に影響を与える人物なのに、終わってみればそれほど深掘りしたくなくなってしまいます。それは彼の行動原理が「患者を助ける」という極めてシンプルな理屈でしかなかったからでしょうか。案外主人公なんてそんなもんでいいのかも。舞台装置に徹しつつ、主題とは違うところで魅力を描いていく。それでキャラを立てられるのは、主人公という看板があるからですもんね。
伊集院登
まさか最後の執刀が伊集院になるとは。いや、伊集院になること自体は読めても、伊集院が朝田・加藤・霧生の技術を学んだ医療キメラと化して朝田を救うとは思いもしませんでした。
実はドラマだと伊集院のキャラはちょっと違和感があったんですよね。情に厚い割にはひねくれているというか、流されやすいというか。流されやすいこと自体はそれでいいのですが、その割には大事な場面で覚悟が決まり過ぎていて「君そんな感じだったっけ?」みたいなことを思うシーンが度々ありました。
ただ原作の方だと、伊集院って終始医者という仕事に向き合っているのが伝わります。冷めているように見えて凄く貪欲だな、というか。貪欲さを増したのは朝田が登場してからですが、それまでも常に自分が医局でどう振舞うべきか自問自答していて、なんか「上に立つのってこういう人なんだろうな」みたいなことを思いました。現実でもね。
ということで医龍でした。同じ作者の幽麗塔、夏目アラタの結婚も面白いので是非読んでみてください。私はまなざし珠子の自由研究の2巻を待ちます。