下川関の趣味ブログ

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【漫画】はじめの一歩 幕之内一歩VS小橋健太

 私はスポーツ漫画が好きです。アイシールド21がきっかけでこのジャンルにハマり、それから色々な作品を見てきました。メジャー、ハイキュー、ONE OUTS、最近だと灼熱カバディとブルーロックがお気に入りです。

 これらの作品は定期的に見返しているのですが、その中で最も感動したのがはじめの一歩の幕之内一歩VS小橋健太の試合でした。アニメですけどね。今回はこの試合について書いてみたいと思います。

 はじめの一歩は、いじめられっ子だった一歩が自分を変える為にボクシングを始めて、プロボクサーとして活躍する話です。1989年から連載が開始され、現在145巻というスポーツ漫画史上最長の歴史ある作品で、ザ・スポ根な感じですね。ギャグも結構面白くて、たまに信じられないぐらい下品な笑いを取りに来ます。「俺の○○をくれてやる」はあかんでしょ。

 

概要

 今回紹介するVS小橋の試合はアニメ第一期の18~19話、晴れてプロボクサーになった一歩が新人トーナメントの二回戦での対戦です。

 パンチ力のない小橋はディフェンスとジャブで相手をコントロールして危険になったらクリンチし、判定勝ちを狙うという消極的な戦法をする選手で、強烈な一発を持つインファイターの一歩とは対照的です。また新人トーナメントで一歩の偵察をする等、いかにもなデータキャラです。

 大方の予想はそれまで華々しいKO劇を見せてきた一歩優勢でしたが、いざ試合が始まると一歩の強打は悉くいなされ、ようやくチャンスが生まれたかと思えばクリンチで逃げられ、振りほどけざまにジャブを入れられ続けます。経験の少なさもあってか一歩はみるみる疲弊し、あと1ラウンドでKO出来なければ判定負けは必至という状況まで追い込まれました。

 一歩にとっては絶体絶命、小橋にとっては完璧な試合運びで迎えた最終ラウンドで、偶然放った小橋の右ストレートが一歩にクリーンヒットします。その手応えと自分のパンチが一歩に効いたという実感が、小橋に「KOの夢」を見せてしまいます。そして勝利目前、逃げ切れば勝ちという状況で、小橋は打ち合いに臨み、そこで大振りになった小橋の隙を突いた一歩の一発がヒットし、ダウンを取ります。

 立ち上がった小橋は選ばなければなりませんでした。当初のプラン通り逃げ切るか、一歩をKOで倒しにいくか、コーチの安田が逃げ切れとセコンドから伝えますが、小橋はKO勝ちを狙いにいきます。前に出て連打を仕掛ける小橋、その小橋の攻撃を耐え抜いて放った一歩のパンチが顔面にクリーンヒットし、二度目のダウンを奪います。最終ラウンド残り13秒でのダウン、時間的に立てば勝ちという状況で立ち上がった小橋は、一歩をKOする為に歩み寄りますが、その最中で気を失ってキャンバスに倒れます。結果は一歩の逆転KO勝ちで試合は終了します。

 

KOの夢

 小橋健太が初登場した18話、彼は繊細で卑屈なキャラクターとして描かれていました。パンチ力のなさを自覚している小橋は勝つ為にこのボクシングスタイルを身につけましたが、 その戦法は同じジムの練習生からも批難されており、姑息ともとれる自分の戦い方に劣等感を抱いていました。

 ただ自分のやり方を理解してくれる人もいて、それがコーチの安田です。安田はキャリア223勝の内、たった19回しかKOを取らずにチャンピオンになったマキシー・ローゼンブルームを引き合いに出して、小橋の戦い方を肯定し、小橋はそんな安田を慕っていました。そうして二人三脚で築き上げたものを、ある種台無しにしてしまった一歩との対戦。

 きっかけはたった一発のパンチでした。初めて感じたクリーンヒットの感触に小橋は困惑します。手応えとは裏腹に、自分のパンチが最初は本当に効いているのか信じることが出来ていませんでした。しかし一発、もう一発と繰り出すごとに一歩の動きが鈍っていくのを見て、自分のパンチが効いたという実感と共に、心の奥底で恋焦がれていたKOの夢を抱いてしまうのです。

 試合が終わった小橋は、控室で涙を流します。

分かってたのになあ。まともに打ち合っちゃ勝ち目はないって。

分かってたのに。

あんまり良いのが決まったもんだから、夢見ちゃいましたよ。

はじめの一歩

 残酷にも夢を見たことで、夢も勝利も失ってしまった試合。小橋は後悔していました。

 

KOの夢

 一度目のダウンを食らった時、小橋には再び逃げに徹するという選択肢がありました。安田は小橋に逃げ切るよう指示しますが、葛藤の末、KOを選んだ小橋。

 この矛盾こそ人間の本質というか、人間が人間である理由だと思っています。例えそれが正しい道でないと分かっていたとしても、したいと思ってしまったら止められない。そして、だからこそ己を殺してでもやるべきことに徹するプロフェッショナルへのリスペクトも生まれるというものです。

立て! 小橋立て!

自分のボクシングを捨ててまで勇敢に打ち合ったんだ!

お前が勝つんだ! 勝つ為に立て!

はじめの一歩

 制止を振り切られた安田は二度目のダウンの際に小橋に声を掛けます。

勝つんだ。

勝つ為に立つんだ……!

倒して、勝つんだ! KOで勝つ!

はじめの一歩

 この時の小橋の感情がこれです。残り2秒、立てば勝利という状況で彼の中にあったのは変わらず一歩をKOすることでした。立てばゴングが鳴って終わりだというのに、小橋にはもう判定勝ちするという考えはなかったのです。

 確かに彼の選んだ道は間違いだったのでしょう。しかし、もう試合は終わるというのにKO勝ちする為に立とうとした小橋を、それほどまでに自らの夢に抱き締めようとした彼を、一体誰が笑えるというのでしょうか。彼はKO勝ちという大きな夢の為に敗れましたが、その夢が最後のカウントで彼を立ち上がらせようとしたのも間違いありません。

 あまりにも純粋で真っすぐな夢を抱いて負けた男。それが小橋健太の物語でした。もしも彼が「せめて判定勝ちでも……」と立ち上がろうとしたのなら、これほど感動はしなかったでしょう。しかし彼は最後の最後まで一歩にKOで勝つ為に立ち上がろうとした、分不相応な夢を自覚しながらどこまでもひたむきに追い続けた泥臭さと純粋さに胸を打つ作中屈指の名試合でした。

 試合後、自分の選択を後悔する小橋に安田はこう言います。

良いじゃないか。良い夢なら何度でも見ようじゃないか。

いつか現実になるのが楽しみだよ。

はじめの一歩