ニックスのホームで行われたゲーム3は、第3Qの序盤にニックスが追い上げたものの、終始スパーズのペースで試合が運ばれ勝利します。ゲーム4はスパーズが勝利すれば2勝2敗でホームに帰ることが出来る、非常に重要な試合でした。
スパーズは最大29点差という圧倒的なリードを生み出し、すっかり静まり返ったMSGは終盤の怒涛の追い上げに歓喜。1点差でスパーズがリードする最終盤、熱狂に包まれた中で放られたブランソンのロングスリーがリングから跳ね上がると、ボールはリバウンドに飛び込んだアヌノビーの手に落ちてきてティップイン、逆転に成功します。残り1.2秒からのインバウンズも阻止したニックスは、NBAファイナル史上最大の逆転劇を演じました。

3勝1敗で優勝に王手をかけたニックス、そして試合の大部分を支配しながら取りこぼしてしまったスパーズ。彼らのゲーム3とゲーム4について、書いてみたいと思います。
ウェンビー対策→タウンズ対策
ニックスのウェンビー対策の大部分を担っていたタウンズ。ドライブで突破してウェンバンヤマのリムプロテクションを無力化し、ディフェンスでもウェンバンヤマのドライブをファウルなしで止めるタウンズにスパーズは手を焼いていました。
これによってスパーズはタウンズ対策を始めます。ツーメンゲームに対してスイッチし、タウンズにボールを持たせる隙を作らない守り方を選択しました。その為かウェンバンヤマがタウンズのところで引き出されることはなくなり、再びゴール下が機能します。結果としてタウンズをゲーム3は9点、ゲーム4は13点に抑え込むことが出来ました。
躍動するアヌノビー
これに対してニックスはアヌノビーが躍動し始めます。ブランソン、タウンズに次ぐ第三の矢として、ウェンバンヤマがゴール下にいることで空いた選手が攻める形でアヌノビーはコーナーでスリーを打ち、カウンタードライブで得点しました。
このプレーオフで多くのウィングがVSウェンバンヤマの形でオフェンスを仕掛けましたが、ある選手はシリーズが進むにつれてシュートを外すようになり、またある選手はボールを持つ事すら嫌がりました。それはウェンバンヤマが驚異的な歩幅と長い腕によって、リムプロテクションに参加出来る位置からスリーに対してプレッシャーを掛けられるからです。スリーをブロックされる恐怖に負けてカウンタードライブを選択してもゴール下でブロックされる、そんな常識はずれなディフェンスに対抗するには、視界を遮られてもシュートを外さないスキル、ゴール下でウェンバンヤマに押し負けないフィジカル、何よりもメンタリティで負けないことが必要でした。
アヌノビーはその全てをゲーム4で見せました。彼は第2Qにスリーをブロックされましたが、それに怯まず打ち続けることを選択し、その後スリーを5/5のパーフェクトで決めています。またゲーム4ではなかったものの、これまでのシリーズで度々ウェンバンヤマを抜いてのダンクを見せており、見事にタウンズ対策のアンサーになったアヌノビーでした。
MVP・アヌノビー
ゲーム4のMVPは間違いなくアヌノビーでした。それはラストショットを決めたこと、そしてタウンズの代わりに点を取ったことだけでなく、後半にフォックスを封殺したことの影響も非常に大きいと思っています。
アヌノビーはこれまでコーナーをマークするヘルプディフェンダーとしてプレーしていました。マイク・ブラウンはそのアヌノビーのマッチアップをフォックスに変更したのです。アヌノビーは元々リーグ最強クラスのディフェンダーであり、その彼をスパーズの起点役につけるのは道理ですが、なぜニックスは今までそれをしなかったのか。
その理由は幾つか考えられます。ひとつは、ウェンバンヤマが試合が進むにつれてジャンプシュートを選ぶようになって、アヌノビーのヘルプディフェンスの優先度が下がったこと。
そしてもうひとつはスタミナの問題です。アヌノビーはこのプレーオフで20.7点をFG 57.8%、3P 50.6%のTS 74.0%という八村をも凌ぐ得点効率を記録していますが、彼がこの数字を残しているのは、過去のプレーオフと比較してプレータイムが短いことにあると思っています。ブラウンが積極的にベンチユニットを起用することによるプレータイムシェア、それによるスタミナ温存がオフェンスでの集中力を高めていると推測しています。
ここにディフェンスでフォックスをマークするという仕事を担うことになれば、アヌノビーのオフェンス精度が下がってしまうのではないか、そういう懸念がブラウンにはあったのではないでしょうか。そうであればアヌノビーにフォックスを守らせるのはある種切り札であり、簡単な決断ではなかったでしょう。
これによって、前半に13点と6アシストをターンオーバーなしで成し遂げたフォックスは、後半5点1アシストに4ターンオーバーの大失速。カーター・ブライアントすらもスリーを決めた前半から、フォックスの展開力を失ったスパーズは完全にリズムを失い、後半たったの3本しかスリーを決められませんでした。
つまりニックスの大逆転は、アヌノビーがオフェンスを牽引したこと、そしてアヌノビーがディフェンスでスパーズを機能不全に陥らせたことが引き起こしたドラマであり、この試合が彼のものであることを物語るかのように、奇跡のラストショットが誕生しました。
NBA 2025-26シーズン
— 下川関 (@NBA928906263606) 2026年6月12日
2026/6/12 NBAファイナル ゲーム4
スパーズVSニックス
106対105でスパーズが1点差でリードする中、残り1.2秒で逆転のティップインを決めたOGアヌノビー pic.twitter.com/OECAR2zTt9
アヌノビーがブランソンにインバウンズすると、直ちにアヌノビーをマークしていたフォックスがウェンバンヤマとダブルチームを仕掛けます。これに対してブランソンはタフスリーをすぐさま選択します。この時に唯一フリーだったのがアヌノビーですが、フォックスはパスコースを切っており、パスの選択肢はなかったといえるでしょう。
つまりブランソンはシュートを打つかドライブで突破するかをボールを貰った瞬間に判断する必要がありました。このスリーが外れてしまったのですが、ブランソンが素晴らしかったのはこの瞬間の判断を要求される場面で迷わなかったことです。これによりリバウンドのチャンスが生まれ、フリーのアヌノビーはリバウンドに飛び込みます。
アヌノビーもまた、このリバウンドに切り替える判断の早さがまず素晴らしかったです。少しでも遅れていれば彼の腕はボールに届かなかったでしょう。そして判断の早さに優れていたとしても、彼の跳躍力と腕の長さがなければ届きえない場所、つまりあのリバウンドはOGアヌノビーという選手しか取れないリバウンドだったと言えるのではないでしょうか。
そんな彼にしか取れないリバウンドが終盤の1点を争う場面で生まれたことは、奇跡という他ないでしょう。あらゆる最善を尽くした上で、最後はボールの跳ね上がる角度ひとつで如何様にも結果は変わってしまうという状況でした。そこで偶然、ボールはアヌノビーが逆転のティップインに繋がる場所へと落ちたのです。
私は2020年からNBAを見始めて、これまで多くの試合を見てきました。数々の逆転劇も見てきました。しかしここまで「奇跡が起きた」としか言えない試合は初めてでした。最善を尽くした上で最後は運、その状況でボールが転がった先が、その試合の主役だった。私はこのプレーを見た時、言葉を失うと共に、この奇跡の瞬間を彼らと迎えられたことに感謝しました。
MSGで生まれた奇跡、はたまたMSGが生んだ奇跡なのか。このプレーはNBAの歴史に永遠に残るであろう瞬間でした。