サンダーとの大接戦のカンファレンスファイナルをゲーム7で勝ち切ったスパーズと、キャブスをスイープで下したニックスというファイナルは、90年代のNBAを思わせる対戦カード。私はその頃を知らないのですが、昔のNBAを知る人に「今年はスパーズとニックスがファイナル出るんですよ」と言ったら、遠い目をしていました。
日程の苦しさもあってニックス優勢と予想していましたが、そんな問題を感じさせないような運動量を見せたスパーズに、これは激しい戦いになりそうだと思っていたゲーム2を辛くもニックスが制し、アウェイ2連勝を果たします。これによりニックスは、NBAファイナルの舞台でアウェイで2連勝した史上3番目のチームとなりました。ちなみに他の2チームとは1993年のブルズ、1995年のロケッツで、いずれのチームもその年に優勝を果たしたそうです。
今回はこのゲーム1、ゲーム2の内容について触れていきたいと思います。
ウェンビーVSタウンズ
ウェンバンヤマ対策
スパーズはNBAに来る前から「エイリアン」として注目され、今シーズンはリーグの顔と見られるような活躍を見せたビクター・ウェンバンヤマがキープレイヤー。人間離れしたボディフレームから繰り出される高打点のシュートと、その圧倒的なストライドで通常では考えられない位置からダンクに行く、まさにエイリアンじみたフィニッシャーです。
昨年まではアウトサイドでのプレーが多く、オフェンス面ではいち「ウィングプレイヤーの一人」という位置づけになることも少なくありませんでした。しかし今シーズンの開幕戦でデイビス、ライブリー、フラッグを並べたマブスのビッグラインナップを完膚なきまでに粉砕し、いよいよ本格的にNBAを侵略しに来た、というような期待感を見せていました。その勢いは落ちることなく、気づけば強豪ひしめくウェストをシーズン2位で終え、1位のサンダーすらも打ち負かしてウェストのトップに上り詰めました。
これだけ恐ろしいオフェンスを見せながら、真に恐ろしいのはディフェンス面です。世界最高のディフェンダーたちが集うNBAにあって、見たことがないようなブロックやスティールを連発するウェンバンヤマのゴール下は、彼がいるというだけで速攻を止めざるを得ません。
そんな異次元のリムプロテクターであるウェンバンヤマを攻略する為に、各チームが様々な対策を講じてきました。ウェンバンヤマにマークされた選手がスリーを打ってインサイドから引き出す、空いたインサイドにコーナーからカッティングする、ウェンバンヤマとは逆サイドからドライブを仕掛ける等、実に多くのウェンビー対策が実行されてきました。そしてスパーズは、それらを跳ねのけてこの舞台に立ちました。
タウンズという選手
このシリーズではウェンバンヤマとタウンズがナチュラルマッチアップとなります。そのタウンズといえば歴代級のビッグマンシューターであり、体格からすれば驚異的なスピードと体格通りのフィジカルなドライブが特徴の選手。ニックスは彼がウェンビー対策の最前線を担うこととなります。
とりわけタウンズのプレーで特徴的だったのはドライブです。ブランソンとのツーメンゲームから、ビッグマンのタウンズがリジェクトしてウェンバンヤマを抜くというパターンがゲーム1、ゲーム2を通して効いていました。下がって対応すればタウンズは得意のアウトサイドシュートを打っていくので一筋縄ではいかないところです。
このプレーを見て思うのは「他のチームは出来なかったのか」ということでした。例えばサンダーにはホルムグレンがいて、ウルブスにはリードがいました。だから彼らがタウンズのようなプレーが出来ていれば、特にサンダーはファイナルに進出出来ていたのではないかと思います。なぜタウンズは出来て、彼らは出来なかったのか。
前提としてタウンズはプレーメイクに絡むビッグマンであり、ホルムグレンとリードはコーナーシューターであるという役割の違いはあります。リードの場合はスクリーナーになることも普通にありますが、ホルムグレンに関してはほぼコーナー待機です。こういったプレーにチームとして慣れているか否かという違いが、選手の能力以外の部分でタウンズとその他のビッグマンとの差を作っているように感じます。
その違いを踏まえつつも、ホルムグレンに関しては正直何もかもが足りなかったと言えるでしょう。シュートの精度に関してはそもそもアテンプトが少ないので語れませんが、ボールを持ってからの判断の早さ、クイックリリースの技術、ドライブのスピードのなさとフィジカルの弱さ、そもそもツーメンゲームに参加しない等、挙げればきりがありません。じゃあ何が出来るのかという話は置いといて……
ではリードはどうだったかと言われれば、割と近いことが出来ていたかと思います。特にクイックリリースに関してはタウンズどころか、ガードも含め多くのNBA選手よりも早く精度も高いぐらいです。おまけにドライブのキレやハンドリングもタウンズ顔負けで、ことシュート力とドライブに関してはタウンズと同等かそれ以上と言っていいのではないかと思っています。
この身長でこのハンドリング、フットワーク、クイックリリース。ナズ・リードという選手の特徴が色々と詰まったプレー。 pic.twitter.com/8gpiyRidFS
— 下川関 (@NBA928906263606) 2026年5月13日
考えていたのは「ウルブスがタウンズを放出したのは正解だったのか」という話です。サラリー事情の話なので致し方なかったと思いながらも、このファイナルを見ていると、もしかしてこのトレードがなかったらウルブスはスパーズに勝てていたのではないか、と思っても仕方ありません。しかしリードのシュートやドライブを見ていると、彼にタウンズの役割を期待するのは凄く理解出来るんですよね。ですが実際には、リードがいたウルブスはスパーズに敗れました。
リードが敗北の原因では全くありませんし、寧ろ彼がいなければスイープさえあり得たかもしれませんが、思うのはリードとランドルではタウンズの穴は埋めきれなかったのも事実のように見えます。タウンズとリードで違うところといえばディフェンスとスクリーン、パス能力。特にディフェンス面ですね。タウンズはガードのようなプレーが出来る上で、ビッグマンに求められるリバウンドの強さがあります。
タウンズとリード。同じ役割を出来るようでいて、微妙に違いがある両選手です。そしてその小さな違いがプレーオフの結果を左右した……のかもしれません。だからウルブスがタウンズを放出した話は、良い悪いは置いといて凄く理解出来るなあと思いつつ、もしタウンズがいたらとも思う、という話でした。
実際問題ウルブスがスパーズに負けた理由はPG不足、ランドルの不調、マクダニエルズのムラのあるプレーで、少なくともリードには何の非もないですよね。改めてこの二人が同じチームにいたっていうのは凄い話です。
ウェンビーVSタウンズ
試合の話に戻りましょう。ウェンバンヤマのディフェンスをドライブで攻略していくタウンズは、不調なブランソンの代役としてチームを牽引しました。それだけでなくパスでの展開もすれば、ウェンバンヤマの裏のスペースを取ったかと思えばコーナーに異動してスリーを決めるというプレーも見せます。このゴール下からコーナーに移動するムーブは最早必殺技ですね。ツーメンゲームが形になれば絶対に止められないし、インサイドでもアウトサイドでも強いタウンズにしか出来ないプレーです。
そのタウンズを止める現実的な手段として、彼をファウルトラブルにするという作戦がありました。タウンズといえばファウルトラブルというぐらいに、特にウルブス時代は大事な場面でいないことがあり(だからこそリードが目立った)、ゲーム2序盤はウェンバンヤマも積極的にタウンズのところを攻めていたように見えました。
しかしウェンバンヤマのプレーは徐々にアウトサイドに寄っていったのです。そうなればビッグマン対決でアドバンテージを取られ、序盤のリードをあっという間に覆されました。
最終盤で2本のジャンプシュートを外した、というかチョイスしたのもそうですが、攻守にタウンズにメンタル面で追い込まれていたように見えました。ファウルしてくれないタウンズにヘルプのアヌノビーというインサイドで戦うことに疲れ、ディフェンスでは自分の得意を発揮できないという状況が続いた中で、楽に打てるシュートを選択したくなってしまったような終盤だったと捉えています。
しかしウェンバンヤマとは関係ないところで立て続けにファウルを吹かれたタウンズが下がると、スパーズは一転攻勢に出ます。第4Qだけを見ていると「スパーズこれ勝っただろ」と思いたくなる内容だっただけに今日勝てなかったことは痛手ですし、ジャンプシュートを選択した、言い換えればニックスのディフェンスを困らせる選択を出来なかったウェンバンヤマは勿体なかったなと思いますね。
ミカル・ブリッジズのオフボール
ゲーム1で後半にゾーンで積極的にダブルチームするアグレッシブなディフェンスを仕掛けました。このゾーンが正解か否かでいえば正直微妙だと思っていて、というのもウェンバンヤマが忙しなくカバーに動かされていたことと、マークの受け渡しが雑になっていたことから、前もって用意していた戦術という感じがなく、どうにかしなければとパニック的にチョイスした戦術のように見えたからです。
しかしここでのガード陣とウェンバンヤマのプレッシャーは凄まじく、ただでさえコントロールに苦労していたニックスのハンドラーたちは更に追い込んでいたように見えました。良いか悪いかは置いといて、凄かったという感想です。日程的にニックス側にスタミナの分があるはずが、それを全く感じさせなかったスパーズ。
これに対して早々に攻略の兆しを見せたのがブリッジズでした。彼はオフボールでミドルに入り込んでジャンプシュートを打つプレーを時折見せますが、その要領でディフェンスのギャップとなる箇所へ次々に飛び込んでいきました。パサーへのプレッシャーが凄まじかったのでそこへパスが来る機会はあまりなかった印象ですが、このムーブがスパーズのマークの受け渡しを混乱させてディフェンスの穴を作り出します。それを埋める為にウェンビーが奔走し、空いたインサイドを複数の選手が埋めに入り……と、点差を維持する為に途方もなく動かされた感がありました。このムーブがなければスパーズのゾーンは、もしかしたら手放しに褒められたのかもしれない。
そして今日もブリッジズはギャップに飛び込んでスパーズディフェンスを崩していきました。これがちょうどタウンズがファウルトラブルになった時間帯で、彼はミドルに加えて不調だったスリーも立て続けに決めてスパーズの猛攻を鎮めます。
ブリッジズのプレーは、サンダーのハーテンシュタインがポストで攻略するオフェンスと概ね同じ発想だと考えています。誰がマークするか曖昧になる場所にポジションを取ることでディフェンスを動かし、ウェンバンヤマの裏のスペースやカバーリングで空いたコーナーを利用するオフェンスで、これはサンダーの有効な戦術でした。
但しブリッジズの場合、元々アウトサイドにいるところから動き出すのがハーテンシュタインと違うところです。ポストに入って来ることは分かっていても、いつ入るのかを確認しづらい場所から飛び込んできますし、エルボー付近で止まるかと思えばそのままするするとウェンバンヤマの裏のスペースに走り込んでくることもあり、これをゾーンで止めるには相当な連携か運動量が求められるでしょう。
彼がいる限りは、正直スパーズはゾーンにすればするほど苦しくなりそうな気がしています。でもキャッスルに専属マークさせたらどうにかなるのかな? このゲーム2のMVPは恐らくタウンズになるのでしょうが、そのMVPレースに突如として名乗りを上げたような第3Qのブリッジズでした。
伏兵ランドリー・シャメット
今日の試合を語るにはシャメットの存在も欠かしてはならないでしょう。ハートのファウルトラブルに伴ってプレータイムが伸びたシャメットは、オフボールシューターとしてスパーズのディフェンスを動かしました。マクブライドとアルバラードの控えPGは勿論、ブランソンとハートでさえもコントロールに苦労するスパーズのガードディフェンスに、パスコースを作ってくれるシャメットのオフボールはそれだけでオフェンスを楽にしているように見えましたが、加えてきっちりシュートも決めました。この活躍がなければハートの不在はブランソンの負担増大という形で重くのしかかっていたと思うので、大仕事も大仕事です。
この試合を見たら、なぜシャメットはNBAで生き残れるかの瀬戸際にいたのか不思議に思いますよね。私のかつての印象は「ムーブは良いけどフィニッシュが悪い」という感じです。だから過去のシャメットを知っていたら、大事な場面こそ試合に出しづらい選手だと思うのですが、クラークソンをローテーションから外してまでこのシャメットを引っ張ったマイク・ブラウンの決断は大当たりだったといいでしょう。私としては神がかり的とさえ言いたくなります。
ただ何よりも彼の期待に応えたシャメットは素晴らしいですね。体が流れようが何だろうが打てると思えば積極的にシュートに行く姿勢に、スパーズとしては対応せざるを得ませんでした。改めてニックスのベンチは凄いですよね。シャメットもそうですが、マクブライドにしてもアルバラードにしても、明らかにスパーズに苦戦していたのに、ギリギリのところで持ちこたえていました。
タウンズ、ブリッジズ、シャメット。悉くシュートを外し続け、最後のフリースローさえも1本外してしまったブランソンの不調を、この三人を中心にカバーしたゲーム2のニックスでした。ニックスとしては更なる一手というより、ゲーム2までにやってきたことをインテンシティ高く継続することが今後は重要になると思っています。そしてそのゲーム3はニックスのホームであるMSGです。実に27年ぶりのファイナルに、ファンの熱狂は相当なものであろうことが予想されます。シリーズに王手をかけるにはまさにうってつけの展開、既に準備は万端と言っていいでしょう。
逆にスパーズは様々な課題にアンサーを出していかなければなりません。タウンズをどう止めるか、タウンズを止めるのにゾーンでいいのか、ウェンバンヤマをどうオフェンスに絡めるか、ウェンバンヤマがいない時間をどうやり過ごすか。
ゲーム3はどうなるのか。非常に楽しみです。