ルカ・ドンチッチのトレード以降、うだつが上がらなかったマーベリックスがシーズン中にニコ・ハリソンGMを解雇した2025-26シーズン。以降マイケル・フィンリーとマット・リカルディが暫定GMの位置に収まっていましたが、マブスは先日元ラプターズの名GMであるマサイ・ウジリを迎えました。
ウジリが最初に下した決断がジェイソン・キッドHCの解雇。現役時代はNBAを代表するPGであり、2010-11シーズンに球団初優勝をダーク・ノビツキーらと共に成し遂げたキッドは、2021-22シーズンから5年間に渡ってチームを指揮してきました。
私がNBAを好きになったきっかけはドンチッチで、彼がトレードされるまではマブス一筋で応援してきたので、当然キッドにも色々と思うところがあります。今回は彼のマブスのHCとしてのキャリアについて語りたいと思います。
2021-22 カンファレンスファイナル出場
2022-23 プレーオフ不出場
2023-24 ファイナル出場
ドンチッチと共にシーズンを終えた3年でカンファレンスファイナル出場1回、ファイナル出場1回と輝かしい成績を残したキッド。2022-23シーズンはジェイレン・ブランソンの穴埋めに失敗し、ケンバにカンパッソにホリデーと次々にガードを獲得して、最終的にマッキンリー・ライト四世をシーズン終盤の主力にするという苦しさはありましたが、それ以外の年を見ると優秀も優秀な成績です。
就任1年目の2021-22シーズンは、正直よくこのロスターで勝てたなという印象でした。ブランソンとフィニースミス以外は他のチームならとても活躍出来そうにない選手たちを抱えたロスター構成でジャズとサンズに勝利し、チャンピオンになったウォリアーズに完敗したという結果は、苦しさ以上に上を向きたくなるものでした。
ファイナルに行ったシーズンも実はそういう印象で、アービング以外にスターと呼べる選手はおらず、ギャフォードとPJワシントンという弱小チームのスターターを率いて勝利していく様は爽快感……を通り越して最早気味の悪ささえ感じました。
そんなキッドのマーベリックスは「ドンチッチのワンマンチーム」を極限まで突き詰めていったようなチームでした。さすがにそれはないだろと言いたくなるぐらいにドンチッチを酷使するスタイルは批判もありましたが、これがあったからこそドンチッチという選手が特別になったような気もしています。彼の卓越したプレーメイク能力はセカンドガードが活躍しやすいポイントを生み出し、ビッグマンのアスレチックさを際立たせ、そしてコーナーのウィングにイージーショットをプレゼントしていました。
個人的に、その中でも印象的なのがデリック・ジョーンズJrです。今でこそクリッパーズで渋いベテランみたいになっているDJJですが、マブスに来るまでの彼はシュートの安定しないコーナーシューターで、どのチームからもディフェンス力を注目されてはカットされるというキャリアでした。それが2023-24シーズンはチームの主力、プレーオフでは全試合スタメン起用です。
面白いのが、ドンチッチが来たからスリーが凄く入った、というわけではないことです。DJJの鋭いカッティングとカウンタードライブがチームオフェンスに加わった、つまり彼のそれまで目立たなかった能力が発掘されたのが何よりも印象的でした。確かサンダーとのプレーオフで、アービングとギャフォード、そしてDJJがトライアングルになる形でゴール下で連携するオフェンスがあったと思うのですが、あのプレーはドンチッチ関係ないですからね。最終的には選手としての価値が高まったことでマーベリックスはDJJを引き留めることが出来ず、涙のお別れをしなければなりませんでした。
DJJだけではありません。クリバーにグリーン、遡ればニリキナやブロック等、ドンチッチとキッドのコンビによって輝き始めた選手は数多くいました。言い換えれば、それだけ多くの選手たちを幸せにしてきたということです。クリバーなんてレイカーズでは控えの控えみたいなポジションにも関わらず未だに10milを貰っていますし(文句ではないですよ)、グリーンはドラフトの経緯の問題もあってルーキーシーズンの冷遇っぷりは凄まじかったですが、今ではすっかりホーネッツのベテランウィングです。そしてニリキナやブロックはマーベリックス退団後、瞬く間にNBAから居場所を失いました。
だからドンチッチとキッドというコンビは、とても人格的に優れた体制だったというのが一番の印象です。ドンチッチは分かりやすいと思います。親しみを感じやすいキャラクターと前述のプレーメイク能力で、彼とプレーするのが目当てでFAがやって来るという状況を作っていました。そしてキッドも、信用する選手を酷使して一度使わないと決めた選手には中々プレータイムを与えない如何にも軋轢を生みそうな起用法をする一方で、選手からの批判は殆どありませんでした。
つまり、私はキッドを単純に人として尊敬しています。人格的に優れているHCやフロントって、当然NBAにはたくさんいると思っているのですが、その雰囲気を保ちながら結果も伴わせるっていうのは凄く難しいと思うんですよね。最近だとヤニスとバックスの関係が冷え切っているという噂ですが、これって別に何も特別なことじゃないと思います。シビアに勝利を求めなければならない環境で良い関係を築き続けるというのは本当に楽じゃない……というのは、最近になって凄く感じます。
仕事の話になってしまいますが、無限の時間と豊富な人的リソースがあれば、幾らでも時間を掛けてゆっくりと関係の構築と育成が出来ますが、多くの場合そんな時間も人もいないので、限られた時間で結果を残す必要があります。そうなるとどうしたってきついことを言わなければならない時もあるわけですが、そうやって言い合いになっても互いを信頼し合える関係を築くには、どんな些細なことでも手を抜くわけにはいきません。大きな声で挨拶をするとか、相手の目を見て話すとか。
彼らはNBAという極限の競争にさらされて体力的、精神的に自分を擦り減らし続ける状況下にあって、そういった些細な気遣いの手を抜かなかったからこういったチームを作れたのかな、というのはちょっと妄想じみている気もしますが、そういうことを考えさせられるぐらいにマーベリックスは良いチームだったと私は感じました。
その雰囲気がドンチッチがトレードされたことによりどうなったのかは分かりません。ただ過去のマーベリックスを知るスタッフが次々に消えて行く状況でカルチャーを維持する労力は途方もないことが伺えます。だからこそドンチッチがトレードされた時、もうキッドを解雇すればいいのにと正直思っていました。チームを実力的にも文化的にも引っ張る存在だったドンチッチの穴を埋めるには、あまりにも傷ついているように見えたトレード後の会見に、バスケの結果も伴わなかったというのは酷い仕打ちだと思いました。今シーズンも中盤あたりから持ち直せたものの、結局攻守にディティールの粗さを改善する手立てがあるようには見えず、色々と限界に見えました。
本当にお疲れさまでした。おかげで良い夢が……本当に良い夢が見れました。キッドがどこか別のチームでHCをするのか、或いはしないのかは分かりませんが、ひと時の夢を見せてくれたことに心から感謝して締めくくりたいと思います。