本日レイカーズとサンダーのゲーム3が行われ、131対108の大差でサンダーが快勝しました。サンダーの圧倒的なディフェンスを前にボールコントロールすら困難だったゲーム1、リーブスがカムバックしたものの純粋なハードワークとホルムグレンの爆発に敗れたゲーム2と、実力差を感じる内容が続きます。
そんな中で迎えたゲーム3も、内容としてはゲーム1やゲーム2と大きく変わりませんでした。しかしこの試合、レイカーズHCのJJレディックはベンチメンバーのローテーションを変えてきました。レギュラーシーズン全試合に出場し、平均25分のプレータイムを与えてきたララビアを起用せず、ルーキーでシーズン中に25試合しか出場していないシエロを使ったのです。
ルーキーのアドゥ・シエロ
シエロはスクリーンとオフェンスリバウンドでチームをフォローして、13分という短い時間に8つもリバウンドを記録しました。その内3つのOREBはエイトンに次いでこの試合で2番目に多い数字です。
2026/5/10 レイカーズVSサンダー
— 下川関 (@NBA928906263606) 2026年5月10日
ゲーム3のシエロのプレー pic.twitter.com/kVSCxoWa2x
オフェンスリバウンドを取ることの効果は、単にミスを隠すだけに留まりません。リバウンドシチュエーションの後にディフェンスが完璧にマッチアップすることはほぼ不可能なので、逆に言えばオフェンス側はディフェンスが崩れた状態から再開出来るので、得点しやすい状況が生まれます。効果としては速攻を狙うことでディフェンスが戻れない状態でオフェンスする現代のハイペースバスケと同じで、NBAでは既にオフェンスリバウンドに絡むことが、トランジションを積極的に狙うことと同様に重要視されつつあります。
シエロがこの役割を効果的に実行したことで、レイカーズはこのシリーズで初めてサンダーの2ndチャンスポイントを上回りました。レイカーズのゲーム3の2ndチャンスポイントは21点で、実に約25%の得点をオフェンスリバウンドから生み出しています。
ドンチッチ不在ということもあり、明らかに実力差で負けているレイカーズ。ここでシエロを起用したということは、言い換えればレディックがハードワークの部分で勝負を仕掛けたということであり、その狙いは2ndチャンスの得点が示すようにしっかり内容にも表れていました。
去年のプレーオフ
これを見て昨年のプレーオフのゲーム4を思い出しました。
今回のシエロの起用については、良いようにも悪いようにも見えました。良いところはまずプレータイムの配分です。昨年のゲーム4で見せた5人を後半フル出場という暴挙から考えると、まともに出場機会を与えてこなかったベンチの端の選手まで使うようになって、レディックもHCとして成長したのかな、ということです。正直これについては前が悪すぎたというか、スタメン酷使で有名なトム・シボドーでさえもさすがにスタメン全員を後半フル出場させる、なんてことはやっていなかったので……
もうひとつの良かったところは、シエロのマッチアップディフェンダーがサンダーのビッグマンになっていたところです。ポストの4つ目の動画はシエロがSGAに対してスクリーンを掛けたシーンで、これは今日当たっていた八村のスリーをハーテンシュタインのところから打たせるプレーでした。結果的にイリーガルスクリーンでターンオーバーになってしまいましたが、シエロの起用はこのようにサンダーのビッグマンのディフェンスを咎めるという狙いもあり、サンダーのディフェンスを崩す算段があることもレディックは示していたように思えます。
悪いところは、そんなシエロにシーズン中にプレータイムを与えてこなかったことです。良いカッティングからダンクミスしたり、SGAにイリーガルスクリーンをしてしまったりしたのもそうですが、ディティールの甘さを所々で感じさせていたシエロ。試合に出していればより良いプレーをしてくれたかもしれない、もし改善しなかったとしても「彼はそういう選手だ」と計算に入れてローテーションを考えることは出来ます。シーズン中にやってこなかったことだというのが引っ掛かって、今日のプレーの甘さを全部シエロの責任にし辛いです。
つまり今日のレディックのシエロ起用は、戦術としては非常に論理的な転換でそこはポジティブに見ていますが、突如これまで使って来なかった選手を出してきたという部分で、傍から見ると「破れかぶれな戦術転換」という印象も持ってしまいます。どうにもならないから付け焼刃で解決しようとする、みたいな。
要するに、このシリーズを見ていると「ゲーム3で急にハードワークに目覚めたJJレディック」という風に見えるわけです。しかし果たしてそうなのか、という疑問が今回の記事のテーマに繋がります。
レディックと若手
私としては、レディックは急にハードワークの重要性に気付いたわけではないと思っていて、それこそ去年のプレーオフではスタメンとしてヘイズを起用しつつも、試合が進めばほぼフィニースミスを使い続けていました(ヘイズのスタメンもよく分からなかったけど)。だからフィニースミスの仕事の重要性は理解していると思うんですよね。それは同じくハードワークで助けてくれるスマートを重用していることからも伺えます。
だからこそ余計に、なぜシーズン中にシエロを使わなかったのかが分からなくなってしまいます。自分たちの戦い方にマッチした選手をなぜ使ってこなかったのか。フロントが連れてきた選手を戦術に合わないからという理由で使わないHCは沢山いますが、戦術に合っていて実際にプレーオフミニッツを与えてもいるにも関わらず使わないのは、ちょっと不可解です。この理由について少し考えてみましょう。
レイカーズの戦力と役割分担
若手を起用しない理由として一般的に考えられるのが、層が厚すぎてプレータイムを与えらないということ。ではレイカーズの選手層がどういう状況なのか、それを整理する為に軽くレイカーズの戦術について触れてみたいと思います。
開幕時のレイカーズは完全にハンドラーオフェンスで、コート上に複数のハンドラーを置いてプレーメイクは彼らに任せていました。ロールプレイヤーは彼らを支える役目で、ロスター構成の思想は本当に一般的なハンドラーオフェンスのチームです。
そのハンドラーにあたるのがドンチッチ、リーブス、レブロンでした。ロールプレイヤー役は八村、ララビア、バンダービルトで、スクリーナーとしてエイトンとヘイズが用意されています。ここにPGのスマートがやってきてどっちつかずなよく分からない役割になっていたように、特に開幕時のレイカーズはハンドラーが充実し、ウィングの層が薄いチームでした。
【開幕時の役割分担】
ハンドラー:ドンチッチ、リーブス、レブロン
?:スマート
ウィング:八村、ララビア、バンダービルト
スクリーナー:エイトン、ヘイズ
ここでのポイントは、レイカーズのウィングは他のチームに比べても役割が限定されているということ。ハンドラーの動きに合わせてカッティングすることはありますが、基本的にはハンドラーのパス待ちです。ララビアはそれに徹することが出来ないので、スマートとは違う意味で何の役割なのか分かりませんが。
このバランスがTDLあたりから変わって来て、レブロンとスマートがハンドラー役とウィング役の中間的な位置づけになり、そこにケナードというハンドラーもシューターも出来る万能なウィングがやってきたことで、レイカーズは単なるハンドラーオフェンスに留まらない、非常にバリエーションに富んだオフェンスをするチームになりました。
【TDL後の役割分担】
ハンドラー:ドンチッチ、リーブス
ウィング&プレーメイカー:レブロン、スマート、ケナード
スポットシューター:八村、ララビア、バンダービルト
スクリーナー:エイトン、ヘイズ
昨年まではハンドラーがオフェンスの起点且つ全てであり、ウィングの役割はそれに合わせることでしかありませんでした。これが今は、ハンドラー起点は変わらないもののウィングの展開力とオフボールムーブであらゆる角度から得点を仕掛けるオフェンスになったのです。レブロンの変化が最も顕著であり、彼の変化こそが今のオフェンスになった理由の全てな気さえしますが、他のチームが真似したくても出来ないこの形にオフェンスをまとめたレディックの手腕は素晴らしいです。
コネクトとシエロ
こうして纏め直すとシエロはともかく、コネクトを持て余したのは理解が出来ますね。スポットシューターにはオフェンスでの仕事が少ない分、ディフェンスやハードワークで奮闘して欲しいところですが、コネクトは身体能力の高くない選手なのでもう少しプレーメイクに絡んでくれないと……とは思います。
このようにしてロスターの役割を整理してチームオフェンスを押し上げたレディック。ざっくり言えば「ハンドラーとそれ以外」ぐらいの区分けだったのが「プレーメイクに絡む選手と絡まない選手」という区分けになっているのが今のレイカーズです。当然プレーメイクに絡まない選手には、その分だけディフェンスやハードワークで助けてほしいところですが、レイカーズは依然としてプレーメイクに絡まない役割の選手層が薄い状態です。
八村の控えであるララビアはよく分からないことをしますし、逆にバンダービルトはザ・ディフェンス&ハードワークな選手ですが、スポットシューターとしてはシューティングが不安定で離脱の多い選手でもあります。だからレディックとしては、ことこのプレーオフに関しては八村しか実質的に選択肢がなく、しかし過去にディフェンスをルーズさを理由に懲罰交代したことがニュースになったように、その八村も信用していない様子です。
うん……だからやっぱり、もっとシエロを信用して使えば良かったのにと思いますね。コネクトに関しては開幕時は20分近く使っていましたし、ケナードが途中からやってきたこともあってプレータイムを与えられなかったのは理解出来ますが、シエロはそうじゃないですからね。
私はレディックのオフェンスコーディネートは優れていると思っていますし、今のレイカーズは見ていて純粋に面白いバスケをしています。思い返せばADが得点王みたいにインサイドで無双していた時期を作ったのも彼でしたし、それがきっかけでADに目が眩んだニコ・ハリソンがドンチッチを差し出した……はさすがに違うと思いますが。
ダービン・ハムがHCの時は本当にハンドラーオフェンスでしかなかったので、そこから考えるとプレーオフでの結果は伴っていないものの、レディックは独自色を持った面白いHCだと評価しています。何気にハムの時代はカンファレンスファイナルに出場していますからね、どう結果に繋げていくかが今後のレディックの評価を左右するでしょう。
来シーズンのレイカーズ
来シーズンのレイカーズの話です。
日本なので八村の契約延長ばかり話題に上がりますが、今シーズンが終わるとレブロン、ケナード、クリバー、ヘイズの契約も終了します。更にリーブス、エイトン、スマートも来シーズンはプレイヤーオプションで、特にリーブスは高額契約を求めているらしく、応じなければPOを破棄して別のチームと契約する可能性が高いです。逆に契約が残っているのはミニマムを除けばドンチッチ、バンダービルト、ララビア、コネクトで、実は大きく作り変えることが可能なレイカーズ。レイカーズのフロントはどういう選択をするのでしょうか。
今シーズンの動きを見ると、結構レディックに寄り添ったフロントムーブだったのでそういう動きを継続するとしたら、まずレブロンとスマートは再契約になるのでしょう。今のバスケをするにはレブロンは必須ですし、プレーメイカーの仕事に加えてハードワークもこなせるスマートは便利に使えます。
逆に言うと、それ以外の選手はどうなるか全く読めません。リーブスはドンチッチと並べることを考えるとあまりにもディフェンスが弱く、スマートを抱える前提であれば高い契約はあげたくなくなるでしょう。役割的にリーブスかケナードのどっちを取るか、という選択になるかと思います。リーブスやケナードの契約金が高くなりすぎるのであれば、FAでケビン・ハーターやクエンティン・グライムズのようなシューター兼ハンドラー的に振舞える選手を引っ張って来たり、或いはもっとフィニッシャーに振り切ったノーマン・パウエルも視野に入るでしょう。
そしてプレーメイカーのチョイスと同じぐらい、ビッグマン選びも重要です。ドンチッチとのツーメンゲームが以前ほど重要ではなくなった今、ビッグマンに求める要素も変わるでしょう。エイトンはプレーオフでも活躍しているので現状だと契約延長が濃厚と見ていますが、クリバーはそもそも試合に出ていませんし、ヘイズもドンチッチとのピック&ロール以外では活躍出来ない選手です。個人的にはホーフォードやルーニーのようなオフボールスクリーンも上手い選手がフィットしそうだと思っています。
そういう感じでFAで選手を上手く揃えれば揃えるほど、若手のプレータイムは減っていきます。チームとしての理想はシエロやニック・スミスにプレータイムを与えられないぐらいに層を厚くすることですが、実際には多くのチームはそれが出来ませんし、ルーキー契約の選手が少ないレイカーズは尚更です。チーム作りって難しいですね。
まだシーズンが終了したわけではないのに、終わったかのように来シーズンの展望を書いてしまっていますが、試合を見れば見るほど良い意味で「来シーズンどうするんだろう」と考えたくなる今日のレディックの選手起用でした。
開幕前はこんなにハンドラーをかき集めてどうするんだろうと思っていましたし、開幕してからも痩せたドンチッチのキレッキレなプレーは目を引いたものの、やっていることはただのハンドラーオフェンスだったので、正直最初は全く興味をそそられないチームでした。今シーズンはレギュラーシーズンをほぼ追っていませんでしたが、今になって思うとその理由の半分ぐらいは「ドンチッチに興味を持てなかったから」な気がしています。元マブスファン、というかドンチッチファンなのでね。
それがレブロンとレディックによってチームとして戦術のブレイクスルーを起こし、見ごたえのあるバスケを作ってくれたことで、個人的にはかなり来シーズンが楽しみなチームになっています。こうしてシーズンのまとめみたいな内容を書いているのは、確かに今日のゲーム3を見るとだいぶ苦しそうには見えますが、本当に悪い意味はなくて、ただただ来シーズンへの期待が大きすぎるんですよね。