デューク大学時代のクーパー・フラッグのハイライトを見た人であれば、必ず見たことがあるであろうコン・クヌッペル。オフボールでフラッグからパスを引き出してシュートを決める、ベテランのような洗練されたプレーに彼が四年生であると勘違いした方も少なくないでしょう。そんなクヌッペルは正真正銘のワンアンドダンとして全体4位でホーネッツに指名されました。
19.4点5.8リバウンド2.9アシスト
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これは現在のクヌッペルのスタッツです。19.4点は現時点で全ルーキー中No.1となっております。彼よりルーキー時点で高い平均得点を記録したのは直近10年でジョエル・エンビード、ドノバン・ミッチェル、ルカ・ドンチッチ、パオロ・バンケロ、ビクター・ウェンバンヤマと錚々たる顔ぶれです。
しかし特筆すべきはクヌッペルの得点効率。TS 65.4%、50-40-90に迫る得点効率でここまで記録しています。そして先に挙げた選手たちの中で、ルーキー時代にTS%が60%を超えた選手はただの一人もいません。まだシーズンの1/4が終了した段階の数字なので何とも言えませんが、もしこの調子を維持することが出来ればクヌッペルは「最も完成度の高いルーキー」としてNBAの歴史に名を残すかもしれません。
クヌッペルの魅力
そんなスーパールーキー・クヌッペルの魅力とは何なのか、触れていきたいと思います。
1.シュート力
彼のプレーを支えているのは、何と言ってもロングレンジのシュート力。8.5本も打って43.8%という、既にリーグトップクラスの3Pスキルを持っています。現時点で63本の3P成功数はなんとリーグ4位。トップはステフ・カリーの67本、そこからタイリース・マキシー、ドノバン・ミッチェルと並びますが、彼らの誰よりも成功率が高いのがクヌッペルです。
この成功数は、単純にシュートの精度が高いだけでは成しえません。これを達成するには、それだけスリーを打つシチュエーションを作る能力が必要になります。カリーのようにオフボールで強引にフリーのシチュエーションを作るか、マキシーやミッチェルのように強気にプルアップで打ち切るか。その能力が既にリーグトップクラスであるという事を彼は示しています。
2.ドライブフィニッシュ
加えてドライブからのフィニッシュも優れているクヌッペル。フィジカルはそれなりに強いものの、NBA選手としては特別な身体能力を持たない彼ですが、2Pのフィニッシュ能力も高いです。
まず彼ぐらいの身体能力であれば「そもそも目の前のディフェンダーを抜けない」ということがNBAでは起こり得ます。しかもNBAに来たばかりのルーキーであれば尚更です。現にドラフト1位のフラッグはかなり苦しんでいます。しかしクヌッペルはオフボールから精度の高いスリーを決めることが出来るので、自然とディフェンダーが前に出てきてドライブで抜きやすいシチュエーションを作っています。これが出来るほどに警戒されるシューターがルーキーだというのだから驚異的です。
そうしてドライブを仕掛けるのですが、ここで彼のスキルが際立ちます。NBAでは「背後から迫って後ろからブロック」ということが往々にしてあり、実際クヌッペルもゴール下でこれまで6回ブロックされています。しかし彼の身体能力を考えれば、もっとブロックされていても不思議ではありません。
プレーを見ていて感じるのは、彼のディフェンダーとの間に身体を入れる技術の高さです。ブロックされないようにボールとの間に身体を入れて物理的に守らせないようにするこの技術は、ルーキーなら出来ない人の方が多く、何ならベテランになってもそれなりにいるのですが、当たり前のようにこなしているクヌッペルです。ルーキーでこの技術が高かった選手といえば、私は真っ先にジェイレン・ブランソンが思い浮かびますが、まさに彼のような身体の使い方だと思っています。
3.パススキル
前述のシュートとドライブの組み合わせで、既にエリートなスコアラーとしての才覚を見せている彼ですが、身体能力的な縛りもあって待ち構えているリムプロテクターを掻い潜るようなフィニッシュスキルはそこまで高くありません。これに対してどうアンサーするのかは今後の長期課題のように考えておりましたが、それを既に解決しつつあります。
それが彼のパススキル。フィニッシュしきれないと思ったらキックアウトでパスを捌き、チャンスを繋いでいます。リーグトップクラスの選手として名を連ねるアンソニー・エドワーズが数年単位で身に着けたスキルを、一か月でものにしてしまった感があります。
ここで終われば「状況判断に優れたシュート力の高いスコアラー」に留まるのですが(それでも充分過ぎるのですが)、そこからもうワンステップ踏み出そうとしているように見えるのが今のクヌッペルです。最近はオフボールムーブからボールを貰ってパスを捌いたり、もっといえばトップからコントロールして味方にパスを合わせる、完全にPG的な仕事も徐々に担当しています。そして彼の場合、パスを捌いてからまた動き直してボールを貰おうとするので、どこでオフェンスが終わるのか読めない状態が作られつあります。
ホーネッツの事情
そんな優秀な選手をドラフトしたホーネッツはイースト11位と、例年と変わらない戦績です。試合を見ていると、とてもそうは見えない働きをしているクヌッペルですが、なぜそんなことになっているのでしょうか。
ホーネッツ OFFレーティング 115.0(リーグ17位)
ホーネッツ DEFレーティング 119.2(リーグ24位)
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そう思って見てみるとOFFレーティングはリーグ中間で、勝率を踏まえれば悪くはない数字です。そしてDEFレーティングは24位、ここが足を引っ張っているように見えます。
ラメロ・ボール ONコート
OFF/DEFレーティング 121.9/117.2
ラメロ・ボール OFFコート
OFF/DEFレーティング 108.2/118.1
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そして調べてみるとこんな数字が出てきました。かなりクリティカルというか、もうこれだけで全て説明がつきそうな数字です。
ホーネッツはラメロ・ボールが出場している時間のOFFレーティングが121.9、これをそのまま当てはめるとナゲッツと並んでリーグ2位のオフェンスです。そしてボールがいないとリーグ26位のオフェンスになってしまいます。
ボールは才能に溢れる選手ですが、気まぐれなプレーチョイスや頻繁に怪我をしてしまうことから色々と問題がある選手だと思っているのですが、そんな彼を抱えながらでもリーグトップクラスのオフェンスチームになれるポテンシャルがあるホーネッツ。言い換えれば、彼がいない時間に出てくる選手たちが、ボール以上に問題だということです。
コリン・セクストン ONコート
OFF/DEFレーティング 110.9/114.8
トレ・マン ONコート
OFF/DEFレーティング 109.6/122.2
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ホーネッツの控えハンドラーはコリン・セクストンとトレ・マンです。彼らが出ている時間はOFFレーティングがぐっと下がっています。特にマンの方はDEFレーティングも大きく悪化しており、かなりチームの足を引っ張っています。
ホーネッツの控えPG
この控えPG陣をどうにかすれば、ホーネッツのオフェンス問題は大きく改善することが伺えます。ではどう手を加えるべきかという話ですが、個人的には単純に二人のプレータイムを減らしてウィングディフェンダーに変えるだけでいいと思っています。
ホーネッツはクヌッペルと同時に、全体34位でライアン・カルクブレナーというビッグマンをドラフトしています。この選手はカレッジで5年の経験があるオールドルーキーで、身体能力には欠けるもののスクリーンが非常に上手く、オンボールでもオフボールスクリーンも積極的に掛けてくれるハードワーカーです。クヌッペルのドライブ効率の良さには、何気にカルクブレナーの献身的なインサイドスクリーンの存在もあります。
カルクブレナーのインサイドスクリーンのおかげで、ホーネッツは以前よりもウィングのドライブアタックがやりやすくなっています。一方でピック&ロールのロールマンとしてはそこまで優秀な選手ではないので、ハンドラーとのツーメンゲームで輝く選手かと言われればやや微妙な気がしています。
そしてセクストンとマンはツーメンゲームが上手くないPG。セクストンはドライブやフィニッシュは悪くないものの視野が狭く、単純にパスの精度も低いです。ツーメンゲームに限らず、NBAでPGをするのはかなり厳しいスキルレベルです。マンはそもそもNBAで通用するレベルにありません。
つまり控えPGかカルクブレナーのどちらかに手を加えれば、勝率は上向くかと思います。問題はどちらに手を加えるかという話ですが、ここは迷いなく控えPGをどうにかする方を選んでいいでしょう。正直な話、仮に後になってPGが欲しいとなっても、彼らと同レベルの選手を連れてくることは何ら難しくはありません。
ウィングの層を活かしたオフェンスを
控えPG二人を手放した時に問題があるのではないか。そう思われるかもしれませんが、個人的にこの二人はいなくなるだけでオフェンスの改善が見込めると思っています。
というのも、この二人はプレーメイク能力がない為に、頻繁にボールを持ち続けてしまいます。そうするとホーネッツの強みであるウィングのドライブアタックの回数が減ってしまうのです。
これは現時点で発生している問題です。セクストンやマンからテンポよくボールが回って来ることはなく、ショットクロックぎりぎりでボールを押し付けられるならまだいい方で、そのままターンオーバーなんてこともざらにあります。そして何より、有効なパスを回してもセクストンとマンがボールムーブを止めてしまうというのが最大の問題です。ラメロ・ボールは問題がある選手だと書きましたが、ボールを貰ってからの判断は彼らに比べれば断然早いのでボールムーブが止まることはありません。
そして、クヌッペルの存在です。彼のプレーはまさに「ホーネッツのオフェンスはかくあるべき」と示しているように見えます。クヌッペルは時折PGのようなプレーをすると書きましたが、そのプレーメイクは「状況判断に優れている」というところに留まり、誰もが驚くようなパスを出すことはありません。しかしその連続で作られるオフェンスは掴みどころがなく、守る側からすればどこからシュートを打たれるのか分からなくなります。
クヌッペルはチームを変えられるか
プレーメイク能力に乏しいセクストンを獲得したフロント、多くのチームから見放されたマンを重用するHC。これが今のホーネッツ最大の問題のように感じています。HCだけならまだしも、フロントまで自分たちの強みを理解していないように見えるのは頭が痛い話です。ホーネッツがここからステップアップするには、どうにかして彼らの目を覚まさせなければならないと思っています。
そのカギをクヌッペルが握っているというのが個人的な意見です。クヌッペルは一選手という立場からチームの考え方を変えることが出来るのか。
どうにも洗練されたスキルとIQの組み合わせから、クヌッペルをケイド・カニングハムと重ねてしまいます。カニングハムがピストンズを変えたように、クヌッペルもホーネッツというチームを変えられるのではないかと、どうしても期待したくなってしまいます。もしもクヌッペルがきっかけでホーネッツのフロントやHCの考えが変わった時、彼は「ホーネッツの救世主」としてNBAファンに認知されるでしょう。
既に個人としては充分過ぎるぐらいにディベロップメントしているクヌッペル。今後はそれをチームに波及することが出来るのか、そのレベルの選手になれるのかを課題に戦って欲しいと、一NBAファンとしてそう思います。