マブスのトップACに就任したジェイ・トリアーノはシーズン開幕前、「アンソニー・デイビスにドマンタス・サボニスのような役割を担わせる」という発言をして話題になりました。
今回はこの発言について、シーズンが開幕した今、考えてみたいと思います。デイビスはサボニスになれるのか、そしてサボニスの役割を担うことがマブスオフェンスの活路となるのか。
デイビスとサボニス
この二人はビッグマンとしてはスキルに優れた選手として知られています。元々ガードとしてプレーしていたデイビスは、高校時代に急激に身長が伸びたことで「ガードスキルを持つセンター」としてその名をリーグに轟かせました。サボニスはユーロバスケ出身のセンターらしく、ベーシックなハンドリングやパス、ステップワークを兼ね備えたビッグマンです。
そんなスキルビッグマンという共通点があるデイビスとサボニスですが、それ以外の特徴は真逆といえるのがこの二人でもあります。
スタッツの比較
まずはボックススタッツで比較していきましょう。以下はいずれも2024-25シーズンの数字です。
デイビス
24.7得点 11.6リバウンド 3.5アシスト
サボニス
19.1得点 13.9リバウンド 6.0アシスト
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得点はデイビスが大きく上回っています。24.7点はカイリー・アービングと並んでこのシーズンの15位、対するサボニスは55位です。またデイビスはルーキーシーズンを除いて、一度も平均得点が20を下回ったことがありません。サボニスは逆に2020-21シーズン以外は一度も20点以上を平均したことがなく、個人で得点する能力に関しては明確にデイビスの方が優れていると言っていいでしょう。
続いてリバウンド。どちらも10以上確保している優秀なリバウンダーですが、こちらは明確にサボニスが上回っています。13.9という数字はリーグトップで、彼はなんと2022-23シーズンから3年連続でリバウンド王に輝いています。
そしてアシスト。こちらはリバウンド以上に大きく水をあけてサボニスが上回っています。サボニスの6.0アシストはリーグ24位とビッグマンとしては異常に多い数字で、センターという括りではリーグ2位に位置します。ちなみに1位の二コラ・ヨキッチは10.2アシストで、リーグ全体でもトレイ・ヤングに次ぐ2位。ヨキッチは例外中の例外なので、彼を除けばリーグで最もアシストの多いセンターです。
この時点で言えるのは、デイビスの方がより個人での得点力に優れたエースタイプの選手で、サボニスの方がチームとの連携が上手い起点役の選手だということです。
デイビス
1.2スティール 2.2ブロック
サボニス
0.7スティール 0.4ブロック
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続いてスティールとブロック。ここはDPOYに輝いたこともあるデイビスの圧勝です。2.2ブロックはチェット・ホルムグレンと並んでリーグ3位、実にサボニスの5.5倍もの数字を稼いでいます。サボニスの0.4ブロックはリーグ全体で見ても平均より少し上という程度で、36分換算で見ればリーグ最低レベルのリムプロテクション能力です。
デイビス
3.0ファウル 2.2ターンオーバー
サボニス
4.0ファウル 2.9ターンオーバー
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サボニスはファウルが多い選手として有名です。キングスはビッグマンの層が薄いチームなので、頻繁にファウルトラブルに陥ってはチームを苦しめています。ターンオーバーは僅かな差でサボニスが優れているように見えますが、AST/TOで比較するとデイビスが1.6、サボニスが2.1と差があるので、ボックススタッツを比較しただけでも両者の間には明確にプレーメイク能力の差があることが伺えます。
ちなみにデイビスがアシストで生み出した得点(AST PTS CREATED)は8.2、サボニスは15.0。これを彼ら自身の平均得点と合算するとデイビスは32.9点、サボニスは34.1点を試合中に生み出していることになります。加えて得点効率の面でも明確にサボニスが優れている為、オフェンス面において彼らの間には、単純に平均得点では語れない差が生まれているのです。
スクリーナーとしての差
そして上記に羅列した数値以上に差があるのが、スクリーナーとしての差です。
デイビス
スクリーンアシスト 3.1
サボニス
スクリーンアシスト 6.0
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スクリーンアシストという項目においては、なんと2倍もの差をつけてサボニスが上回っています。この6.0という数字はリーグ圧倒的1位です。ちなみに彼は2019-20シーズンに7.0という数字で、以降の推移を見てみると、
サボニス スクリーンアシスト
2019-20 7.0(1位)
2020-21 6.5(1位)
2021-22 5.5(2位)
2022-23 5.5(2位)
2023-24 6.0(1位)
2024-25 6.0(1位)
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このように6年もの間、常にリーグトップレベルの数字を記録しています。ちなみに2021-22シーズンはルディ・ゴベア、2022-23シーズンはスティーブン・アダムスに敗れました。2021-22シーズンといえばゴベアはまだドノバン・ミッチェルと共にジャズにいた時代で、今以上に多くの選手にスクリーンを掛ける機会があったことが1位になった要因でしょう。アダムスはスクリーナーとしてはリーグ随一の選手ですが、度重なる怪我でプレータイムが減ってしまい、徐々にスクリーンアシストの数字が減っています。ちなみに36分換算すれば昨シーズンのアダムスはサボニスを上回ります。
サボニスの素晴らしいのは、スクリーンアシストという数字において常に安定してリーグ上位にいるというところです。これは長期離脱をしていないということであり、チーム事情が変わったとしても献身的に身体を張っているということです。彼より良いスクリーンを掛ける選手はいるかもしれませんが、彼ほど信頼出来るスクリーナーはほぼいないと言っていいでしょう。
昨シーズンのサボニスがそのスクリーンアシストから生み出した得点が13.4点、そしてデイビスが3.1のスクリーンアシストから生み出したのが7.1点。
デイビス スクリーンアシスト
2019-20 2.4(53位)
2020-21 1.5(102位)
2021-22 2.3(46位)
2022-23 3.2(24位)
2023-24 4.1(10位)
2024-25 3.1(18位)
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個人的にはここがデイビスとサボニスの最も大きな差だと思っています。当然全てのスクリーンが得点に繋がるわけではないので、デイビスの3.1とサボニスの6.0というのは、単純な数字差以上にスクリーンの質、スクリーンに行く回数に開きがあることを示しています。
ちなみに優勝した2019-20シーズンと2020-21シーズンのスクリーンアシストが異様に低いデイビス。これは当時のHCであるフランク・ヴォーゲルが、彼のスクリーナーとしてのまずさを見抜いていたことを示しています。単純に今よりロングレンジのシュートが決まっていたというのもありますが、ヴォーゲル時代のデイビスはスクリーナーとしてよりポストアップの起点役等で活躍した結果、オフェンス面でもレイカーズ優勝に貢献しました。
マブスの現在
そんな彼に、再びスクリーナーとしての役割を期待しているマブス。その結果どうなっているのか。
OFFレーティング 103.5(29位)
DEFレーティング 110.3(8位)
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昨シーズンのオールスター明けに110.0(24位)を記録していたところから、更にレーティングを落としています。ディフェンスは悪くないものの「ルカ・ドンチッチを手放す」という痛みと引き換えだということを考えれば、全くもって誇れる数字ではないでしょう。
デイビスONコート
OFFレーティング 102.5
DEFレーティング 109.3
デイビスONコート
OFFレーティング 101.4
DEFレーティング 107.2
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そしてデイビスのON/OFFコートのレーティングです。意外にもデイビスがいる時の方がOFFレーティングが良く、いない時の方がDEFレーティングがいいという数字になっています。この傾向は、程度は違えど実はドンチッチがいた時と全く同じです。強力なオフェンス力とルーズなディフェンスを兼ね備えたドンチッチから、DPOYを獲得したこともあるデイビスになってなぜ同じことが起こってしまうのか。これについては少し話が逸れるので今回は触れませんが、いずれにせよマブスが明確にオフェンスに苦しんでいることが分かるかと思います。
今シーズンのデイビス
20.8点 10.2リバウンド 2.2アシスト
1.6スティール 1.2ブロック 2.2ターンオーバー
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デイビス本人も全体的にスタッツを落としており、アシストに関しては伸びるどころかペリカンズ時代以来の数字に落ちています。肝心のスクリーンアシストも2.4と昨年を下回っており、マブスの試みは現時点では失敗と言っていいでしょう。
失敗の理由
マブスはハイポストにデイビスを置く形でオフェンスをしています。これはサボニスと同じ使い方です。しかしそこでボールを持つデイビスから適切なパスが出ることも、デイビス個人が得点力を発揮していることも出来ていないのは、ボックススタッツが表しています。
ではそれ以外の貢献が出来ているかと言われれば、スクリーンアシストの2.4が否定しています。
クレイ・トンプソン キャッチ&3P
2024-25シーズン 2.4/5.7(42.4%)
2025-26シーズン 1.0/4.8(20.8%)
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特に問題だと思っているのはトンプソンの得点が露骨に減っている事です。昨シーズンの時点でトンプソンのアテンプトはウォリアーズ時代と比較して減っていましたが、コーナーでパスを待つスポットシューターとしては変わらず優れた結果を残しており、寧ろオフェンスでのオフボールムーブが求められない分、トランジションでの走り合いでチームを引っ張る存在になっていました。
しかし今はドンチッチもアービングもいません。代わりにアウトサイドで彼がオフボールで動き回るスペースが生まれました。その為、トンプソンは去年よりももっとオフェンスで重要な役割を担うはず、というより担わなければならないはずが、幾ら動いてもパスが回って来ません。
これにはデイビスのスクリーン問題が深く絡んでいます。トンプソンがスポットシューターに転身した理由には、単純に彼がオフボールでマークマンを外せないという理由もありました。この事からトンプソンを有効活用する為にはよりしっかりしたスクリーンを用意する必要があったのですが、デイビスはその役割をこなせていません。パスが来てもマークマンを剥がせていない状態なので、苦し紛れの早打ちやカウンタードライブ等、トンプソンらしさが皆無のプレージャッジとなっています。
それだけならまだしも、スクリーンを掛けたらダイブではなくポップを選びがちなデイビスなので、トンプソンが動いた裏のスペースへのパスというパターンもないのが辛いところです。本来シューターを活かしやすいロスター構成で、衰えたとはいえ昨シーズンに14点を40%近い3P成功率で決めたシューターがいるにも関わらず。
デイビスが悪いのか?
ここまで書いて来たように、デイビスはサボニスの役割をこなすのに相応しい選手だとは全く思えないというのが結論です。ですが、これを以てデイビスの評価を下げるのは正当ではないとも思っています。
デイビスがこれまでスクリーナーとしての仕事を継続してやってこなかったことを思えば、彼をサボニスのような選手にしようという発想が出ること自体おかしな話です。デイビスはサボニスのようなプレーメイク能力がない代わりに、個人での得点力は明らかにサボニスを上回っており、JJレディックに率いられた昨シーズンの前半、ピック&ロールからダイブするプレーを徹底すれば得点王レベルのポテンシャルを持っていることを証明しました。マブスがなぜ彼をゴール下のフィニッシャーではなく、プレーメイカーにしようとしているのかは非常に疑問です。
そしてもうひとつ、仮にデイビスのプレーメイカー路線を継続してある程度形になったとして、その先に未来はあるのかという疑問もあります。
キングスはキーガン・マレーやケビン・ハーターがハンドオフでスリーを打ち、空いたインサイドをサボニスがダイブするというのが鉄板のプレーで、このスリーが入ると手がつけられなくなるチームでした。つまりこのオフェンスにはシュータームーブする選手が必要なのですが、今のマブスのロスターにそれが出来る選手が一体どれだけいるでしょうか。トンプソンと、強いて言うならばジェイデン・ハーディぐらいのもので、後はスポットシューターやカッターは出来ても、オフボールで動いてからスリーを決めるというプレーはして来なかった選手ばかりです。せめてクエンティン・グライムズがいればまだ納得出来るものの、彼を手放してしまったことで余計に突拍子もない発想に思えてしまいます。
なぜシュータームーブが出来ない選手ばかりなのかと言われれば、ディフェンス優先の補強をしてきた弊害としか言えません。これから身につけさせればいいと言えばそれまでですが、トンプソンをしばしばスポットシューター的に扱ってきたジェイソン・キッドを含め、どこまで実現性があるのでしょうか。
要するにトリアーノの「デイビスをサボニスにする」という発言は、エースであるデイビスのことも、他の選手たちの特徴も見えていないように受け取れてしまうということです。
統制の取れない組織
なぜトリアーノはあの発言をしたのか?
考えてみたいのは、なぜトリアーノはあんな発言をしたのかということです。デイビスのこれまでの事を考えると、プレーメイカーとして起用するという発想が出るのは不思議なのですが、なぜ彼はデイビスをサボニスにしたかったのでしょうか。可能性は幾つかあると思いますが、私は「プレーメイカー不足への嘆き」だったのではないかと思っています。
ドンチッチがいなくなったことでプレーメイク能力に欠けるチーム事情。アービングの長期離脱後に獲得したのはPGとしては優秀でもディフェンス力に欠けるディアンジェロ・ラッセル。そこからダンテ・エクサムまでいなくなったことで、手元のPGはナジ・マーシャルとブランドン・ウィリアムスになっていたオフシーズンでした。
夏にフラッグをPG起用すると言ったキッド。明らかにコントロール役としては実力不足で、それからラッセルを獲得、ライアン・ネムハードを発掘とPGを補強したフロントでした。しかし蓋を開ければデイビスがプレーメイクをすると言いだしたのは、フロントからすればどういう了見だとなるでしょう。
ここにコーチ陣のフロントへの「でも守れなかったらトレードするんだろ?」という不信感があるように思います。defence wins championshipsを掲げるフロントのことを考えると、信用して使い続けてもオフにラッセルと契約延長を結ばない可能性があり、それはウィリアムスやネムハードも同様です。折角手塩に掛けて育てたとしても「守れないから」の一点でトレードされたらリソースの無駄であり、またチームを作り直す必要があります。
つまりフロントはPGの頭数を揃えたけれども、コーチの視点ではラッセルたちを頭数と認識していない可能性があるのではないか、ということです。コーチたちにとっての頭数は「来年も確実にチームに残ってくれる」という前提があるのだとしたら、ですが。
だったら来年も確実に残ってくれる、言い換えれば本当の意味で頭数としてカウント出来るデイビスやフラッグを育てるという今の状況が、もしかしたら回り回って一番の近道なのかもしれません。
ヴォーゲルの胸中
もうひとつ気になるのが、もうひとりのACであるヴォーゲルの胸中です。彼は2019-21シーズンにレイカーズのHCとしてデイビスと共に優勝しました。
先程も少し触れましたが、その時のヴォーゲルはデイビスの横にドワイト・ハワード等のビッグマンを並べて、デイビスが5番としてプレーする時間を削っていました。それはデイビスの5番としての限界を見切っていたからだと思っているのですが、それであれば、ヴォーゲルはトリアーノの発言についてどう感じたのでしょうか。デイビスにサボニスの役割をさせるのは無謀だとトリアーノに言わなかったのでしょうか。どうもこの二人の間には考え方の違いがあるのではないかと感じます。
マブスはシーズン前にコーチングスタッフの総入れ替えを行いました。そうなるとコーチ間での連携を再構築する必要があり、当然確執が生まれるリスクも潜んでいますが、今まさにそのリスクが芽吹いているのではないでしょうか。フロントとの確執、コーチとの確執。色んなことを考えさせられたトリアーノの発言でした。
いっそのこと
個人的には、いっそのことデイビスとサボニスをトレードすればいいのではないかと思っています。

図はデイビスとダニエル・ギャフォードを出して、サボニスとデマー・デローザンを獲得するトレードです。
キングスはデローザンにザック・ラヴィーン、マリク・モンクのハンドラー陣にデニス・シュルーダーとラッセル・ウェストブルックまで加えた超ハンドラー過多のチームです。そういったロスター構成なので、実は今シーズンのサボニスはポイントセンター的な仕事を殆ど出来ていない状態なのです。普通のセンターとして見るならばサボニスは特別な選手では全くありません。サボニス中心ではなくハンドラー中心のバスケをするのであれば、デイビスやギャフォードの合わせの能力で路線を強化しながらリムプロテクトを加えるのが吉、というのがキングス視点です。
マブスはデイビスがサボニスになることで、トリアーノの語るチーム作りがそのまま実現出来るでしょう。役割がはっきりしないトンプソンも、シューターとして再び復活出来ます。そこにもう一人のプレーメイカー兼クラッチタイムを任せられるスコアラーとしてのデローザンを獲得。デローザンでなくとも、モンクでもシュルーダーでも獲得可能なのがこのトレードです。
しかし当然このトレードはニコ・ハリソンのdefene wins championshipsの考え方とは正反対なのでしょうから、起こる可能性はないと言っていいでしょう。ただ今のところマブスもキングスも見ていられない状況なので、何かしら抜本的な見直しを求めたいところです。